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2008年2月8日
■欠陥マンション訴訟を根本から変える!?
 画期的な最高裁判決

『欠陥マンションをめぐる最高裁判決、購入者に対する設計・施工者の賠償責任を認定』と題した最高裁判決(7月6日)は、欠陥住宅問題に注意を払ってきた私自身、思わず「ほおっ」と驚かされる内容でした。

欠陥住宅訴訟の判例は長い間、損害賠償責任と瑕疵の範囲、原告の適格性などをめぐって業者寄りから消費者保護の方向に少しずつ動いてきました。ところが今回の最高裁判決は、その時計の針を一気に10年分くらい進める大胆な判断を下しています。一般紙もその内容を一部伝えていますが、判決の重要性や影響について正確に把握・説明していた記事はほとんどなかったように思います。
この判決は、実は中古マンションにお住まいの皆さんにとっても朗報なのです。一方、建築、特にマンション供給に関係するプロの人たちにとっては、最近話題の建築基準法の改正以上にケアしなければならない内容を秘めています。

事件と裁判の経緯を簡単におさらいしておきましょう。
問題の建物は大分県内にある、2棟から成る鉄筋コンクリート造の店舗付き賃貸マンションです。東京・渋谷に本社を置く設計事務所が設計と工事監理を担当し、地元に本社を置く建設会社が施工を担当して、1990年に完成しました。建築工事費は約3億7000万円。訴訟を起こした購入者は、完成からまもなく、建築主から建物を約5億6000万円(建物約4億1000万円、土地約1億5000万円)で購入しました。
ところが、建物のバルコニーや居室の床と壁などにひび割れが生じており、鉄筋の露出などが見つかりました。バルコニーの手すりもぐらつくそうです。建物の購入者はこうした点を問題視して、設計者と施工者を相手取り、瑕疵補修工事の代金約2億7000万円を含む、総額約6億4000万円の損害賠償請求訴訟を96年に起こしました。

裁判所の判断は二転します。

一審の大分地方裁判所は、設計者と施工者に瑕疵担保責任があるとして、瑕疵修補に要する費用など合計約7400万円を支払うよう両者に命じました。被告はこれを不服として控訴します。
二審の福岡高等裁判所は、直接の契約関係にない購入者に対して設計者と施工者は瑕疵担保責任を負わないとして、購入者の賠償請求を退けました。また、建物の瑕疵は構造耐力上の安全性を脅かすほどのものではなく違法性は強くないとして、設計者と施工者の不法行為責任も否定しました。今度は購入者側が上告しました。
そして最高裁が今回、二審判決を破棄し、福岡高裁に差し戻したのです。

最高裁は二審とは全く違った観点から判断しています。
判決を要約すると、以下の5点に整理できます。

1. 建物は、そこで居住する者、働く者、訪問する者等の建物利用者や隣人、通行人等(以上をまとめて「居住者等」という)の生命、身体または財産を危険にさらすことがないような安全性(建物としての基本的な安全性)を備えていなければならない。

2. 建物の建築に携わる設計者・施工者および工事監理者は、契約関係にない居住者に対する関係でも、当該建物に建物の基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負う。

3. 建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合は、違法性が強度であるかを問わず、不法行為責任が成立する。

4. 基本的な安全性を損なう瑕疵とは、生命または身体を危険にさらすようなものであり、建物の基礎や建物躯体に瑕疵がある場合に限られない。例えば、バルコニーの手すりでも、居住者等が通常の使用をしている際に転落して生命または身体を危険にさらすようなものは基本的な安全性を損なう瑕疵である。

5. 不法行為責任が認められる以上、直接の契約関係にない者でも設計者や施工者に対して損害賠償を請求できる。

この15はいずれも、いままでの判例にとらわれない画期的なことを言っています。
まず、
1です。

こでは「建物の基本的な安全性」を定義していますが、その安全性を保証する対象として、建物利用者はもちろん、周囲の隣人や通行人まで挙げています。東京・渋谷のガス爆発事故などを想起すれば当然のことかもしれませんが、ここまではっきり明示した判例は珍しいと思います。

次に2です。ここでは、建物の設計者と施工者は、建築主に対してはもちろん、直接の契約関係にない建物の利用者や通行人に対しても、基本的な安全性を満たした建物になるように注意する義務があると言っています。これも当たり前のことですが、プロにとっては厳しい指摘でしょう。

3の判断は、「不法行為責任」が成立する要件を述べています。欠陥住宅訴訟のこれまでの経過を知らない人にはちょっとわかりにくい部分ですが、極めて重要です。

一般に、瑕疵を生じさせた建築関係者を追及して損害賠償を請求するために根拠となる「責任」は、法的には3種類あります。
1つは相手が無過失でも瑕疵の現象さえあればその責任を問える「瑕疵担保責任」であり、欠陥住宅訴訟では最も利用されています。次に「債務不履行責任」が挙げられます。これは瑕疵と損害の因果関係を立証しなければなりません。
これら2つの「責任」は、いずれも直接の契約当事者でなければ追及できません。
3つ目は「不法行為責任」です。これは当事者間の契約関係の有無を問いませんが、責任を追及する側は相手方の過失について立証しなければなりません。このハードルは高く、福岡高裁判決が言うように「瑕疵の違法性の強さ」も問題にされてきたため、これまでの欠陥住宅訴訟ではあまり認められてきませんでした。

ところが今回の判決で最高裁は、違法性の強さには関係なく、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合はこの3つ目の「不法行為責任」が成立する、と言い切ったのです。

これは、欠陥住宅訴訟を提起するタイミングにも大きな影響を与える可能性があります。
2000年に成立した建築物品質確保促進法(品確法)では、瑕疵担保責任を追及できる期間について「建物の主要構造部と雨漏り」について10年、それ以外は2年としています。
新築マンションであれば、引き渡しを受けてから10年以内であれば、瑕疵を知って1年以内に分譲会社に損害賠償請求できます。しかし、10年を過ぎてしまえば、瑕疵担保責任を追及して損害賠償請求することはできません。専門家でも「欠陥住宅訴訟は築10年まで」と言う人がいるくらいです。

一方、不法行為責任を問える期間はもっと長く、20年あります。建物の完成・引き渡しから20年以内に瑕疵の存在を知り、それから3年以内であれば責任追及や損害賠償請求ができるのです。ところが、二審の福岡高裁が「瑕疵担保責任で律せられる分野において、安易に不法行為責任を認めることは、法が瑕疵担保責任を定めた趣旨を没却する」と判示したように、欠陥住宅訴訟の本筋は瑕疵担保責任であり、それを超えて正面から不法行為責任を問うことはおかしい、という論理が、これまで長く通用してきました。
今回の最高裁判決はそうした見えない殻を破って、不法行為責任が認められるハードルを大幅に引き下げたのです。

4も重要です。

「建物の基本的な安全性」は「建物の基礎や建物く体に瑕疵がある場合に限られない」という今回の判決文の文言には、品確法を超える意思がはっきり読み取れます。利用者の生命を危険にさらすのであれば、バルコニーのぐらつく手すりであっても「基本的な安全性」を満たさない瑕疵であり、その瑕疵を生じさせた関係者を不法行為責任で追及できると言っているわけです。品確法は形無しです。

そして5です。
不法行為責任が認められるハードルを引き下げたことで、これまでの欠陥住宅訴訟で大きなネックとなっていた「原告の適格性」も大幅に緩和される可能性が出てきました。

築年数の経った中古マンションでは転売が繰り返された住戸などもあり、居住者全員が新築時の購入者であることは稀です。当然ながら分譲会社と直接売買契約を結んだ人ばかりではないので、共用部分に瑕疵があって損害賠償請求の訴訟を起こそうとしても、原告適格をめぐって区分所有者が一枚岩になれず、管理組合も訴訟の当事者になれないという問題を抱えてきました。
02年の区分所有法改正では、この点が是正され、理事長が「管理者」として区分所有者を代理して損害賠償請求訴訟を行えるようになりました。

そこへ今回の最高裁判決が重なると、どうなるでしょうか。
まず管理者が代理しなくても、共用部分の瑕疵について全区分所有者、居住者が不法行為責任の追及で足並みを揃えることもできる可能性があります。さらに瑕疵担保責任の「築10年まで」の枷(かせ)を脱して、築20年までは、分譲会社はもちろん、新築時の設計事務所や建設会社に対しても瑕疵を理由に損害賠償請求ができるようになります。しかもその瑕疵の範囲は「基礎や主要構造部」に限られないと、今回の判決は言っているのです。

長年その建物を使っていれば、建物や設備の瑕疵を発見し、建設にかかわった設計者や施工者の責任を追及したくなる場面もあるでしょう。それでもこれまでは、直接の契約関係がなければ、裁判を起こしても入り口ではねられ、徒労に終わるケースが大半でした。
構造計算書偽造事件でも、設計者や施工者の不法行為責任を追及して民事訴訟を起こす動きは出ていますが、まだ判決は出ていません。
そうしたなかで出た今回の最高裁判決は、大きな意味を持っていると思います。

最高裁は福岡高裁に差し戻し、渦中の建物に基本的な安全性を損なう瑕疵があるか否か、さらに瑕疵がある場合には購入者らが被った損害があるか、審理を尽くすよう求めています。福岡高裁はこれに応じるしかありません。
さらに、いま全国各地で進行中の欠陥マンションをめぐる訴訟の判断でも、各裁判所はこの最高裁判決を前提にすることになります。この判決をきっかけに、欠陥建築訴訟をめぐるパラダイムシフトが起こる可能性も考えられます。

建築基準法改正の混乱に加えて今回の判決。建築関係者にとってはまさに受難の時代でしょう。

構造計算書偽造事件の代償は非常に大きなものになりそうです。でも乗り越えて行かねばなりません。良い結果を生むまで必要な努力をしたいと思います。

以上


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