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【07 ・ニューイヤーコンサート出演の旅】

人生は時間ではない感動だ
 1989年の正月、2年ぶりのウイーンの市街地はあまり変わっていなかった。
 2年前の正月3日ニューイヤーコンサートの楽友協会大ホールで歌って以来である。これでウイーンは5回目、いつ来てもウイーンは本当に素晴らしい。珍しく改装中の建物が一軒あった。シュテファン大寺院の前の「ハース・ハウス」がその威容【異様?】を誇っていた。オーストリアの鬼才建築家ハンス・ホラインの設計になるこの建築は,パリのポンピドウ・センターと同じように,クラシックな街並みを乱す怪奇な建築と言われて評判が悪いと聞いていたが、新旧二つの建築は不思議なハーモニーを醸し出して、私は少しも違和感を覚えなかった。
 今回のウイーン訪問も、私共家族が所属している混声合唱団「四季の会」のニューイヤーコンサート出演のためである。元日をウイーンの南方にあるブルゲンラント州州都のアイゼンシュタット【人口約一万人】にあり、ハイドンが眠るハイドン教会の元日ミサコンサートで、ハイドンのミサドロルムBMVを歌った。アンコールに応えて「赤トンボ」を歌ったところ、シュエーン(すばらしい)と言う声とともに大きな拍手が沸き起こった。
 さて3日は、いよいよニューイヤーコンサート第二夜出演である。曲目は難曲中の難曲と言われ、世界初演のゴットフリート・フォン・アイネムの「シュトンデン・リートOP26」である。四季の会70余名に楽友教会専属合唱団員20数名が加わっての演奏である。オーケストラはスロバキアのジリナ管弦楽団である。フルメンバーのオーケストラと100名近い合唱団員で、花に囲まれたステージはもう指揮者の出入りがやっと、足の踏み場も無い感じだった。
 12音階の流れを汲むこのアイネムの曲は,ドイツの作家ブレヒト詩によるキリストの受難をテーマとするもので、本来オペラとして作曲されたものを合唱曲として作り直したもので、壮大な曲想を持つ美しい名曲である。劇的な表現に満ち各パートともかなりの高音を要求され、難曲ゆえ全曲演奏されたことが無い。われわれ合唱団は、楽友協会の要請により成せばなるとばかり取り組んだものである。練習には週一回で半年かけた。年末近くなってやっと、仕上がった感じがした。
 第一ステージのモツアルトのレジナチェリーKV276が終わって休憩時間に、私はかつて経験したことの無い自信と不安の入り混じったかつて経験したことの無い緊張感に襲われた。
 演奏は小さいミスはあったが、豊富な練習量のお陰で素晴らしい響きが会場一杯に響き渡った。超満員の聴衆が建ちあがっていつまでも拍手をして下さった。感動に思わず涙ぐんだ。翌朝の新聞記事はこぞってこの演奏を絶賛してくれた。人生は時間ではない、感動だ。この感動で練習の苦労はいっぺんに吹き飛んだ。
「PRACTICE MAKES PERFECT、 IF WE PRACTICE PERFECTLY」
 テノールとして80歳までは感動的な歌を歌いつ続けたいと心から思った。
アイネムのキリスト受難のこの曲を歌うに当たって、キリスト教の歴史と共に、背景の中世という時代と美術・音楽・建築の歴史を勉強し直したが、そうしなければとてもこの曲は歌えなかったと思う。
 ウイーンの歴史博物館にキリスト受難の絵が2枚あるが、寸暇を割いてこの絵を見て時代背景を感じ取った。世界各地の美術館で(ルーブル、プラドなど)見た受難の絵とは趣が少し違っていた。
 ウイーンからニーヨークヘ一飛びで飛んだ。こんなにヨーロッパとアメリカが近いとは思わなかった。一年前にブロードウエイでコーラスラインを見たが今度はキャッツを見た。今回ウイーンではサムソンとデリラとフィデリオを鑑賞したが、日本のオペラの水準はかなり良い線まで行ったように思うが、ミュージカルは演技力と歌唱とスケールの大きさで本場アメリカとの差を痛感させられた。ブロードウエイのミュージカルはとにかく楽しめる。この次ぎは是非大好きなオペラ座の怪人を見たいと思っている。


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